大阪電気通信大学

移動ロボットCreate2と6軸ロボットアームmyCobot280 Piで構成するROS2サービスロボット作成

概要

 本研究では,サービスロボットに関する研究と開発のプラットフォームとして,移動ロボットにロボットアームを搭載したサービスロボット(図1参照)を作成した.移動ロボットにはiRobot社のCreate2を使用し,ロボットアームにはElephant Robotics社の6軸ロボットアームmyCobot 280 Piを使用した.また,作成したロボットを制御するために,ロボット用ミドルウェアROS2(Robot Operating System)を利用した制御プログラムを作成した.

図1 ロボットの外観と組み立ての様子

研究背景

 現代の日本社会では労働力不足が切迫した社会問題として存在する.そのため,これまで主に産業分野が主な仕事場であったロボットがサービス業の分野でも活躍の機会を増やしている.このようなロボット,通称サービスロボットの開発は,これからの日本社会を支える重要な技術である.

ロボット用ミドルウェアROS2

図2 サービスロボット構成のイメージ図

 サービスロボットは産業用ロボットと異なり,多様な仕事を行う必要がある.そのため図2のように様々なロボットデバイスを搭載する必要があり,これらのデバイスの機能を統合することが重要である.このようなサービスロボットの開発を助けるミドルウェアがROS2である.ROS2を使用することで,機能の異なるデバイスの統合的な制御システムの作成が容易になる.

従来のサービスロボット

図3 ロボティクス研究室の従来のサービスロボット

 筆者の所属するロボティクス研究室では,過去にROS2で制御するサービスロボットを作成していた(図3参照).しかし,従来のサービスロボットは

  • ロボットアームCrane+の動きの自由度が低い
  • 移動ロボットKobukiが高価かつ入手困難な状態にある

などの問題点が存在した.そのため,これらの問題を解決した新しいサービスロボットを作成する必要があった.

研究目的

 本研究の目的はより自由度の高い6軸ロボットアームであるmyCobot280 Piと,より安価で使いやすい移動ロボットであるCreate2を使用したサービスロボットの作成,および作成したロボットを制御するROS2を利用した制御ソフトウェアの作成である.

主な使用機材

ロボットアーム myCobot 280 Pi

図4 myCobot 280 Piの外観

 myCobot 280 PiはElephant Robotics社製の6軸ロボットアームである.myCobot 280 PiにはシングルボードコンピュータRaspberry Pi 4 model Bが内蔵されており,この内蔵Raspberry Pi 4(以下内蔵ラズパイと呼称)からロボットアームを制御することができる.また,内蔵ラズパイのUSBポートから,他のロボットデバイスを制御することも可能である.

移動ロボット Create2

図5 Create2の外観

 Create2はiRobot社製のロボット開発用プラットフォームである.バッテリーが内蔵されているため,外部からの電源供給がなくても動作する.PCやRaspberry PiとUSBで接続することで,コンピュータによる制御が可能になる.

ハードウェアの構成とロボットの組み立て

 前述した内蔵ラズパイと北陽電機製の測域センサ URG-04LX-UG01,Intel社製の深度カメラ Realsense D435,Create2をそれぞれUSBケーブルで接続する.myCobot280 Piへの給電はモバイルバッテリーによって行う.また,制御用ノートPCと内蔵Raspberry Piを無線LANもしくは有線LANでネットワーク通信が行える状態にする.

図6 ハードウェア構成図

ロボットの組み立て

 ロボットの組み立てにはロボットデバイスの他,市販のDIY用木製ポールと,合板を本学の3D先端造形加工センターのレーザーカッターを用いて円形に加工した棚板を使用した.

実装した機能

ナビゲーション

図7 ナビゲーションのイメージ図

 ナビゲーションは,壁や障害物を点群として記録した占有格子地図と測域センサを使用し,指定された目標地点にロボットを移動させる機能である.経路生成と経路追従の2つのプロセスに分かれており,これらの処理を行えるROS2用フレームワークNavigation2を利用して実装した.

物体認識

図8 物体認識のイメージ図

 物体認識は,深度カメラの映像から特定の種類の物体を識別し,その3次元の位置座標を取得する機能である.深層学習を利用した物体検出アルゴリズムYOLOv5を使用し実装した.

物体把持

図9 物体把持のイメージ図

 物体把持は,特定の位置にある物体をロボットアームで掴んだり,持ち運んだりする機能である.ロボットアームの制御に特化したROS2用フレームワークMoveItを利用して実装した.

ステートマシン

図10 ステートマシンのイメージ図

 ステートマシンは,他に実装した機能を統合的に制御する機能である.この機能を用いることで,「物体認識を行った後に,認識した物体を把持」というような動作を行うことができる.ステートマシン用のPythonライブラリであるSmachをROS2用に移植したものを利用し実装した.

実証実験

ナビゲーション実証実験

 本実験では,実装したナビゲーション機能を用いて,ロボットを前方1.8[m]に移動させ,180[deg]回転させる実証実験を行った.実験は研究室前の廊下で行い,ナビゲーションに使用する地図は事前に作成したものを使用した.また,内蔵ラズパイとノートPCは無線LANでネットワーク接続した状態で実験を行った.

ナビゲーション実証実験の様子

物体認識・物体把持・ステートマシン実証実験

 本実験では,物体認識機能,物体把持機能,ステートマシン機能を組み合わせ,ロボットに歯ブラシを識別して把持させる実験を行った.また,内蔵ラズパイとノートPCは有線LANでネットワーク接続された状態で実験を行った.

物体認識・物体把持・ステートマシン実証実験の様子

まとめ

 本研究では,移動ロボットCreate2と6軸ロボットアームmyCobot 280 Piで構成されたROS2制御サービスロボットを作成し,ナビゲーション,物体認識,物体把持,ステートマシンの機能を実装した.また,実証実験によって実装した機能が動作することを実証した.

 今後の課題として,

  • 6軸ロボットアームの動きの自由度を生かした,物体の角度に合わせて物体の把持の仕方を変えるなどのより汎用性の高い把持システムの作成
  • ナビゲーションをステートマシンに組み込んだ,物体の場所まで移動して物体認識と物体把持を行うシステムの作成

 等があげられる.

作者プロフィール

谷為奨真

大阪電気通信大学 総合情報学部 情報学科 ロボティクス研究室
出身:和歌山県和歌山市
趣味:プログラミング,ゲーム

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